謹賀新年。皆さん年末年始は如何お過ごしだったでしょうか?

小生はここ二十数年日本で正月を迎えていませんが、当地で生活していると小さい頃に感じた元旦の朝の新生感、大晦日の日とは一日違うだけなのに全く異なった新鮮で希望に満ちた空気に覆われていると感じた高揚した気持ちも今昔の感があります。こちらでは元旦は単なる祝日扱いで会社員や公務員は2日からは通常勤務。日本の松の内、元旦から1週間程度は松飾も撤去せず、華やかなお祭り気分も抜け切らずに親戚や友人の家々を渡り歩いては呑んでばかりいた期間ですが、そんな飲兵衛にとっての日本の古きよき時代を当地で再現するのは不可能です。もっとも今は日本でも我々の子供時代に感じた正月を迎えるワクワク感はかなり薄れているようです。貧乏ゆえにハレの日と普段の生活に大きなギャップがあり、もういくつ寝るとお正月、と童謡でも歌われていたようにこの日から着ることを許された新しい服、当時は豪華にみえたお節料理やお雑煮等が本当に待ち遠しかったものですが、社会が裕福になった今日では興奮度は格段に低下しているようです。

昔は良かったという話をすると、それはお前が歳を取った証拠だと揶揄されるのがオチですが、子供の頃の近所付き合いは現在に比べてもっと濃かった気がします。料理を作り過ぎたなどと言いながらのおすそ分けも頻繁にありましたし、テレビを有する家ではプロレスとかポパイの放映がある日にはテレビのない家々の子供達を招いてみせてくれたり何かと助け合って、貧乏だけど不思議な明るさに包まれていたものです。母も晩年よく言ってました、「貧しかったけど、今想うとあの頃が一番楽しかったなあ」と。その頃に比べると現在の日本社会の共生感や互助の精神が格段に衰えているのは誰の目にも明らかでしょう。総論賛成、各論反対の利己主義的な傾向が最近とみに見られるようになりました。例えば、保育園や幼稚園は地域にとって必要なことは充分認識しているが、それがいざ自分の住む家の近隣に建設されるとなると大反対をする、曰く子供の叫び声や泣き声がうるさい、通園時の交通規制が鬱陶しい、不動産価値が低下する等々。司馬遼太郎氏は80年代のバブル経済が日本人の本来有していた真面目に働く意欲や他人を思いやる心をズタズタにしてしまったと嘆かれていました。農民がそれまで有していた真っ当な勤労精神が当時各地で起きていた土地代の高騰によって失われてしまい、大根等をおざなりに育て、まともな農作業をせず、なーに、その内この辺りの地価は何倍にも跳ね上がるから待ってるだけで充分と嘯くようになったが、こんなのは健全な経済活動からは程遠いと憤慨し、こんなに人心を荒廃させる投機対象の土地は全て公有にすべきとまで思い詰められていました。物質主義的で自分の利益のみを追求する利己主義的な人間がバブル経済に踊らされてこの時期急激に増加してしまったのは歴史的事実です。

翻ってアメリカはどうでしょうか。元々がヨーロッパから新天地を求めて移住してきた清教徒たちが国の始まりだった訳ですから敬虔なクリスチャンは多く、今でも同じ教会の信者同士はつながりは強いようです。しかしmanifest destinyと称し、原住民であるインディアンを啓蒙すると正義の旗を掲げて彼らを迫害、殺戮して土地を収奪してきた歴史は、日本人には一神教の怖さと残酷さを認識させただけだったのではないでしょうか。もう一つ神とはあまり関係のない無頼漢による荒くれ個人主義(Ragged Individualism)は今でも根強く一種の憧れ、特に白人の深層心理の中には理想像として残っているようにみえます。これは理知的な人間でも行動を伴わない知識なんて何の役にも立たないとばかり、凶暴な相手に対しては腕力や銃で完膚なきまでやっつけるジョンウエインタイプの人間です。そうでないと品格がいつも問題となるトランプ大統領の慣例とか常識を無視した予測不可能で一見無茶苦茶な単独行動主義に根強い支持が一定数保持されている理由が説明できません。いずれにせよ、先祖代々八百万の神を信じ、天罰を恐れて仲間同士助け合ってきた我々農耕民族とはかなり肌合いが違います。
慣れたとはいえ、文化も生活習慣も異なる当地での生活は欲求不満もストレスも溜まりがちになるのは日本人の我々にとっては当然のことではないでしょうか。多くの民族の移民によって成り立ってきたアメリカですが、それらの文化は交じり合わないでモザイク状に各々が消えずに存在しています。日本文化も寿司とかラーメンは社会に浸透しているとはいえ、アメリカ人のパーティーに招待されるよりは日本人同士の集いに参加する方が気楽で楽しく感じるのは小生だけではない筈です。文化を共有し、考え方や常識が似通った者同士の集いには余計な気を遣わない気軽さと癒しがあります。これからも他の役員と協力して、会員の皆様が喜んで参加し、ストレス発散に役立つ機会の提供に努力いたしますのでご協力の程宜しく。

松田勉